セミナー講師として起業するときの場づくりの原理
あるメーカーが開発した「乾燥した海苔を刻むハサミ」をご存じでしょうか? 刃が5本あり、蕎麦などにかける刻み海苔が簡単にできるというアイデア商品です。最初は全く売れなかったのですが、打ち出し方をガラリと変えて爆発的なヒット商品になりました。一体、どう変えたのでしょうか?
実は海苔を刻むハサミとしてではなく、「個人情報を守るためのシュレッダーのハサミ」として売り出したのです。もちろん、機能もつくりも変わっていません。ただパッケージと売り文句を変えただけで、売り上げが数十倍になり、大ヒット商品になったのです。
こういった考え方は、セミナーをするときにも大切なポイントです。なぜなら、セミナーも同じく、商品がどれほど素晴らしいものであったとしても、その見せ方や提案が顧客の興味に沿っていなければ顧客に見向きもされないからです。
あなたはたくさん人に喜んでもらえるはずの魅力的な商品を、気づかない間に残念な伝え方・構成で伝えてしまってはいませんか?
セミナーは、内容以上にみせ方や演出、場の作り方が重要です。なぜならセミナー講師の技量として、どんな場のエネルギーをつくるかが、参加者の満足度に直結しているからです。ここでは特に初心者が忘れがちなセミナーの場づくりの基本的な原則を、簡単にまとめてみました。参加者に「来てよかった」「あなたの商品がほしい」と喜んでもらえる工夫としてぜひ活用してください。
セミナー受講者を満足させる4つの実践
セミナーとは、有益な情報や知識を求める人々が集まる場所です。講師として有意義な内容を伝えるのはもちろんですが、自分の商品に興味を持ってもらうこと、その後の購入に誘導することが大きな目的です。
そのためにはまず、受講者がセミナーに心から満足しなくてはなりません。もちろん満足したからといって、全員が買ってくれるわけではありません。ですがたとえ商品の購入には至らなかったとしても、「受講してよかった」「講師のファンになった」と思ってもらえたなら、それはあなたの信用残高になり、決して無駄にはなりません。
いずれにせよ、「来てよかった」「いい人に出会えた」と感じてもらえる時間にすることが最優先です。
ではセミナー受講者の満足とはなんでしょうか。それは参加者にとって重要な「気づき」があったかどうかです。いままで知らなかった新しい価値観を得た時、人は「このセミナーには価値があった」「選んだ自分は正しかった」と感じるものだからです。
この気づきは、受ける人の人生の背景や信念によってそれぞれです。共通しているのは、単なる知識として受け取るよりも体感で得るほうがはるかに価値が高く、インパクトも高くなるということです。
そして、個人だけの気づきよりも、ひとつの気づきが集団で共有されると全員の満足度が上がり、会場全体は一気にパワフルな磁場に変化します。
魅力的なセミナーではこういった特性を生かし、知識を得るだけでなく、体験的な気づきを得られるための工夫を必ず取り入れています。
特に初心者が見落としがちな4つの手法を紹介します。
講師が実際にやってみせる
とにかく言葉だけではなかなか伝わりにくいものです。聞いている人が理解しにくいことを目の前で実践してみせると一気に臨場感を高めることができるので、受講者の理解が進みます。また講師の実力を見極める機会として提供できるのもメリットです。
受講者の誰かに体験してもらう
実際に会場にいる人にその場で体験してもらう方法です。講師と他の受講者との共有空間を作り出し、さらに巻きこむことができます。
受講者同士でペアを組んでもらう
受講者同士で実践する機会を作り、体感できるようにします。関係性と共有できる概念が生まれると、自分なりにセミナーに参加した意義を見出すきっかけになります。
グループで体験する
グループにわかれてセミナー内容を実践し、他の参加者との関係性と交流の場を作ります。複数のシェアを直接聞くことで、それぞれの気づきが影響しあい、全体に拡大します。
いずれも受講者自身のアクションを格段に増やすことができるため、どんなに短いセミナーであっても熟練の講師は必ずこういった内容を取り入れています。結果としてセミナーの最中の個人の気づきが高まり、全員の満足度が大きく上がります。自分のセミナーにとって最適な方法で、いずれかを必ず取り入れましょう。
会場の雰囲気を盛り上げるために
セミナー冒頭の緊張感を打破する工夫
こういったセミナーの多くが、導入にアイスブレイクを取り入れています。アイスブレイクは、アイスブレイキングともいわれ、初対面の緊張感やソワソワとした落ち着かない雰囲気を和らげる手法です。
自己紹介やちょっとしたゲームなど様々な手法があり、ネットで検索するといろいろなアクティビティをみつけることができます。セミナーの講師としては、講座の内容や参加者の性別、年代にあわせて、いくつかすぐにできるものを頭にいれておきましょう。あるいはちょっとした準備をするだけで、場がゆるむ方法もたくさんあります。
自己紹介ひとつにしても、なにもいわなければ名前とあいさつだけであっという間に終わります。それでもいいのですが、例えば「いまハマっている食べ物は?」「もらって一番嬉しかったプレゼントは?」などの短い質問が書かれた紙を用意して、順番にひいてもらい、自己紹介代わりに話してもらうことも立派なアイスブレイキングのひとつです。
ちょっとしたことですが不安や緊張感がやわらぎ、初対面の固さが一気に変わり、前向きなムードでセミナーが始められます。
とにかく参加する人としては、自分以外の人がどんな人たちなのかが具体的な情報があるほど、安心できるものです。結果、セミナー自体の雰囲気が導入から良くなるのです。はじまってすぐに全員でゆるむと、その後の内容が頭に入りやすくなることを覚えておいてください。
疲れたら体を動かす
導入で全員が緩む演出はとても大切ですが、最初のアイスブレイキングだけでは参加者の満足度はあまり変わりません。
その後も絶えず会場の雰囲気を盛り上げながら、全員にとって良い状態を作り上げる工夫を取り入れていきましょう。例えばセミナー内で体を動かす時間を作ることもそのひとつです。
アイデアは机の前で座っているときよりも散歩をしているときの方が浮かびやすいという研究結果があります。途中で体を動かすことは受講者の脳を活性化させて、話に耳を傾けやすい状態をつくるサポートになります。
たとえ当日つかう予定がなかったとしても、軽い運動のバリエーションを頭に入れておきましょう。例えばちょっとしたダンスや隣に座った人とできる簡単なゲームです。疲れてきた会場の雰囲気をガラリと変えるきっかけとして、ちょっと煮詰まってきたかな?と感じたらアドリブで差し込んでいくこともできます。
「ちょっと立ち上がって体を伸ばしましょう」とするだけで、一気に場の空気がリフレッシュします。隣の人と肩や背中をマッサージしあったりするのもいいでしょう。
休憩時間の演出と工夫
もしセミナーが2時間以上に及ぶようであれば、1時間から長くても1時間半で休憩を入れること。まだ講師自身が慣れていない時は、この配慮がうまくできずに長々と話してしまいがちです。もしサポートスタッフがいる場合は、合図をしてもらうようにお願いしておくのが確実です。
人が集中できる時間はそんなに長くはありません。1時間もすれば、聞く人の脳はかなり疲れてきます。この配慮は思っている以上に重要で、この部分を細やかにできる講師はあまり多くありません。言いたいことだけいう講師が多い中で、それができるだけで大きな差になります。休憩のタイムマネージメントはセミナーの満足度UPに大きく影響があることを知っておきましょう。
休憩中は、音楽を流せるようであれば用意をしてください。アップテンポな音楽をかけたり、逆にスローテンポな音楽をかけることは雰囲気のコントロールにとても有効です。場のリフレッシュが音楽で簡単にできるのです。
また、休憩の時に参加者にキャンディやチョコレートなどを口にしてもらうのもおすすめです。血糖値が上がり、疲れを感じている参加者のモチベーションが復活します。会場の事情が許すのであれば、ちょっとした甘いものを用意しておくのもいいでしょう。
それでなくても軽食やお茶などが出されると心がゆるみ、嬉しい気分になります。こういった配慮ひとつで、参加者の満足感は大きく変わります。
満足度を高める質疑応答とは
参加者にとってセミナーはインプットの時間です。人は何かをインプットすると、多くの人は疑問を持ちます。どれだけ上手に説明しても、聞いている人の頭の中には、必ず疑問が生まれるものです。ここで重要なのはその疑問を限られた時間の中で、できる限り解消することです。
そのためにも質問タイムを必ず設けてください。当たり前だと思うかもしれませんが、意外と忘れがちなポイントです。あるいはやろうと思ってはいても、結局は時間がなくなり、飛ばしてしまう講師がたくさんいます。ですがここは必ず時間をとるようにしてください。質疑応答はセミナーの途中でも最後でもかまいません。いくつかのテーマごとに話をしていくのであれば、その項目やカテゴリーごとに質問タイムを設けます。
こういった時間がセミナーにきちんと組み込まれていることは、参加者の満足度に大きく影響します。というのも、1人が何かに疑問を持っているということは、同じような疑問を抱いている人が何人もいる可能性があるからです。1つの質問に丁寧に答えるだけで、その多くの人が「なるほど」と納得できる機会がつくれるのです。
参加者の方にできるだけ疑問を持って帰らせないようにする工夫ができるかどうか。ここは本当にセミナーの満足度に直結しています。なぜなら疑問が積もれば満足度が低下するだけでなく、それはいつか必ず不信感に変わるからです。講師として忘れずに、こまやかな質問タイムをつくり、ひとつひとつの質問に丁寧に答える時間をとりましょう。
本命商品へのスムーズな流れ方
セミナー内容のテーマがいくつもある場合には、次に話を進める前にまとめをすること。その区切りを曖昧にしてしまうと、セミナーが進むにつれて受講者は混乱していきます。聞いている人の理解度を高め、セミナーの満足度を上げるためにも、各テーマと項目の内容はいずれも簡潔にまとめ、気軽に質問できる時間をつくることを心がけてください。
そして最終的に自分の商品を紹介するときには、聞いている参加者が「押し付けられた」と感じないような配慮を徹底的に行うことです。一瞬でもそう思われると、どんなに素晴らしいセミナーも一瞬で台無しです。
具体的には、まずはセミナー開催の告知や募集の時に、どのような商品を紹介するのか情報を伝えておくこと。事前にアナウンスすることで、抵抗感を感じる人を格段に減らせます。そのセミナーに参加している時点でその商品に興味があると捉えることができれば、あなた自身も安心して商品をPRできます。告知前の段階で、自分の狙いを明確にして組み込んでおきましょう。
もうひとつ、セミナーの最初の段階で「今日はコレを紹介しますが、なぜこの商品が必要なのかを今から説明していきます」と宣言するのもよい方法です。実際にはセミナー中というよちも、セミナーの本題に入る前に、こういった伏線をいくつも張ることができるのです。
全ての印象は最後で決まる
セミナーは終わり方で真価が問われます。参加した人たちがどうしたら最高に気持ちよく会場を後にできるか、自分なりにここを徹底的に考えてみてください。
例えば飲食店でもショップでも、そのお店を後にするとき、「ありがとうございました」と言われなかったとしたら、どうでしょう。どれだけ食べたものが美味しくても、どれほどよい買い物だったとしても、店員のその一言があるかないかで、そのお店の印象は変わるのではないでしょうか。ましてや最後まで自分の話ばかりされたらどうでしょう?
セミナーも同じです。最後の最後で印象を下げて、「この人のセミナーにはもう参加しない」と思われることは、とても簡単です。そうならないために準備として、締めのスピーチは完全に決めておくこと。まずは感謝の気持ちを表すことを忘れないことです。
「そんなことは当たり前でしょう」という人がいるかもしれません。ですが、実はセミナーデビューをしたばかりの人の一番多い失敗は、ここを飛ばしてしまうことなのです。
たとえ顔は笑っていても実際には余裕がなく、尻切れトンボのようなセミナーをする講師が本当にたくさんいます。もし誰も商品を購入しなかったとしても、参加者に対しては「ありがとうございました」を必ず伝えましょう。
最大のNG行為は、最後の言葉を商品のPRで締めることです。これも自分は絶対にするわけがないと思っている人に限って、実はやってしまいます。というのも、人は気が緩んでいると、予定していなかったことを話す傾向があるからです。もうこれで終わりだと思うと、緊張がほどけて急に饒舌になるのもこのパターンです。政治家の失言もこの仕組みで起こるひとつですので、決して他人事だと思わないでください。
なによりも感謝に加えて、参加者の幸せと成功を祈る言葉で終わることができたら、聞いている人たちの胸に何が残るかを想像してみてください。
このセミナーは受講者の望む未来のために設計されていて、開催に至っていることを明確に伝えましょう。そして言葉を考えなくても自然に口から出るくらい、万全に準備しておいてください。
そして挨拶が終わったらアンケートに協力してもらえるように声をかけます。これは、セミナー講師デビューしたばかりの人のほとんどが忘れます。そして後からセミナー実績、お客様の声がきちんと拾えなかったと悔やみがちです。
次のセミナーの構成に役立つフィードバックを手にできるチャンスを最大化してください。サポートしてくれる人がいるのなら、たとえ自分が忘れていたとしても積極的に声がけしてもらえるように事前にお願いしておきましょう。ここまでが実際に講師としてセミナーの場づくりで必要な基本原則の話です。
まとめ
いかがでしたか?セミナーを開催するときに、頑張っている人ほど参加者視点でのちょっとした配慮や工夫を見落としがちです。というのも、内容を良くしようと頑張るばかりに、こういった当たり前のことを落としてしまう講師が意外と多いのです。
たとえ最終目的が自分の商品を売ることだったとしても、まずは参加者がセミナー終了後に、それぞれの気付きと満足感を持って帰ってもらうことが重要です。
そして参加者の疑問点を解消し、「このセミナーを選んだ自分は間違いでなかった」と確信してもらえたなら、そのセミナーは初めて成功したといえるでしょう。
コンラボ編集部
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