エンパワーメントとは?相手を勇気づけ、行動へ導くための最重要スキルと活用法
「エンパワーメント」という言葉をご存知でしょうか。
「人を勇気づけること」「人に夢や希望を与えること」という意味合いで、広く使われている言葉です。
そして今、この「勇気づけ」「動機付け」の力を、ビジネスに活かすことが注目されています。なぜなら、チームで動く局面や、部下指導、コンサルティング等の場面で、相手に何かを伝えたり、教えたりしていく場合、そのスキルやノウハウを提供することはできても、自分が相手に代わって行動することはできないからです。できるのは、気持ちよく行動ができるよう促すこと。その際「エンパワーメント」のスキルが大きな威力を発揮します。これさえうまくいけば、相手が自ら行動し、成果に繋がるのです。
では、実際に何をすれば、「エンパワーメント」になり得るのでしょうか。
この記事では、ビジネスにおけるその具体的な方法を示しつつ、エンパワーメントの様々な活用場面についてもお伝えしていきます。このスキルが身につけば、あなたは、相手の真のやる気を引き出し、行動に移させ、成功に導くことができるでしょう。その結果、相手に感謝されながら、自分自身をも成功に導くことができるのです。ぜひ、あなたも、そのパワフルな効果を実感してみませんか。
目次
1、エンパワーメントの意味
「エンパワーメント」という言葉はさまざまな分野で使われていますが、それぞれ意味合いが異なっています。どのようにエンパワーメントの意味を理解したらよいか、まとめてみました。
1−1、広義でのエンパワーメント
Empowerment(エンパワーメントまたはエンパワメント)は、【empower:力(権限)を与える】という単語の名詞形。
「権限の委譲」「本来の能力を引き出して、社会的な権限を与える」という意味があります。
”本来の能力を引き出す”というところから”力や可能性を湧き出させる”ことを「エンパワーメント=湧活」と表現することもあります。 現在では更に解釈が広がり、「人を勇気づけること」「人に夢や希望を与えること」という意味合いでも、広く使われるようになりました。
1−2、ビジネスにおけるエンパワーメント
ビジネスシーンでのエンパワーメントは、 「権限付与・権限移譲」の意味で使われます。
それは、上からの指示や命令で動くのではなく、自ら決定権を持ち、考えて行動するということ。 「一人ひとりが力をつける」という意味も持っています。
ビジネス上のエンパワーメントの狙いは、現場(あるいは部下)に決定権を委ねることで、社員の自主的な行動を引き出し、パフォーマンスを最大化すること。
権限を与えられることは信頼の証でもあります。上司が部下に権限を付与することは、それだけ部下の能力を認めているということ。 つまり、エンパワーメントによって社員のモチベーションのアップが期待できるのです。
1−3、看護・介護・教育分野でのエンパワーメント
エンパワーメントという言葉はビジネス以外でも使われています。
とくに看護・介護の場合「権限を与える」という意味とは少し異なり「患者や介護が必要な人(とその家族)の自立をサポートする」といった意味で使われています。
本人や家族が積極的に治療や介護に関わったり、症状の悪化を防ぐために努力したりすることを、看護師や介護士が援助することがエンパワーメントと捉えられています。
教育分野では「子どもが生まれながらに持っている力・才能を信じ、引き出してあげること」がエンパワーメントとされています。
1−4、エンパワーメントを生み出すコーチング
「コーチング」は、対話によって目標達成のために必要となる考え方やスキルなどを気づかせ、自発的にアクションを起こすことをサポートするもの。相手の内にあるものをコミュニケーションから引き出すことが大切になります。
相手のやる気を引き出すコーチングは「エンパワーメント・コーチング」とも呼ばれ、エンパワーメントにコーチングのスキルは欠かせないものです。 では、実際にエンパワーメントにはどのようなスキルが必要なのか、次項から具体的に紹介していきます。
2、エンパワーメントの基本3大スキル
では、早速、エンパワーメントによって相手を勇気づけ、行動へ導くための、最重要スキルを3つお伝えします。
②質問すること
③承認すること
「意外にも普通のことばかり」と思われた方もいるかもしれません。しかし、簡単なようで難しいのがこの3つでもありますよね。ぜひ、日頃の自分を振り返るつもりで、一つ一つ解説をご覧ください。
2−1、基本3大スキル①:聴くこと(傾聴)
3大スキルの中でも、更に群を抜いて重要なのが、「聴くこと(傾聴)」です。そもそも人は話をきちんと聴いてくれる人に対して、心を開くものですので、この「聴く」スキルが基本中の基本となります。
とはいえ、意識してやってみると、ただ「聴く」というのは意外に難しいものですよね。日頃、あなたも会話の場面で、「次に自分が何を話そうか、どう相手を説得しようか」と考えながら、相手の話を聞いていませんか?逆に言えば、それだけ人は、「ただ話を聴いてもらう」という機会をなかなか持てていませんので、それが実現するでも、相手は大きく満たされ、次なる行動への意欲が湧いてくるのです。
なお、聴くスキルにおいて、これだけは覚えておいてください。最も重要なことは「相手を理解しようとする姿勢」です。相手が、本当はどんなことを考えているのか、どんな思いで話しているのか、といった相手への深い関心をベースに、とにかく聴くことに集中しましょう。自分が話すことは、聴いた後で考えます。当然、沈黙が起こりますが、聴いたことをもとにしっかりと答えれば何も問題はありません。沈黙はスキルなのです。
なお、この「傾聴」については、更に理解を深めていただきたいので、ぜひこちらをご参照ください(→『相手との距離を縮め信頼を得る正しい「傾聴」のスキルと本質』)。傾聴の具体的な実践法やコツについて説明しています。また傾聴チェックリスト付きですので、あなたの傾聴の度合いも確認可能です。
2−2、基本3大スキル②:質問すること
2−2−1、具体的なエピソードを聴く
続いて、2番目のスキル、「質問」に移りましょう。
エンパワーメントの際に求められる質問とは、
です。そんな質問ができれば、相手は、自発的な気付きのもとに、やる気が引き起こされます。あなたが答えを見つける必要はありません。
ではどうすれば、そのような質問になるのか、そのポイントがこちらです。
このことにより、相手は、ある具体的な事象をベースにして、より現実的で、自分に即した気づきを得ていくことができます。中でも効果の高い質問パターンを紹介しましょう。
「今までで一番、○○だったのは何ですか?」
例)
- 今までで一番誇れること、自慢できることは何ですか?
- 今までで一番達成感のあったことは何ですか?
- 最近一番充実感があったのはいつでしたか?
- 今までで一番努力したのはいつですか?(最近一番努力したことはどんなことですか?)
- 今までで一番自分が成長したな、と感じたのはいつですか?
- どんな時に成長したなと感じましたか?
- 今思っている中で、今後一番やりたいと思っていることは何ですか?
etc.
このような質問を使って、具体的なエピソードを引き出し、気付きとやる気を引き出すのです。
2−2−2、事例:独立起業を目指すM氏の場合
では、ここでわかりやすい例を挙げてみます。コンサルタントとして独立起業を目指しているM氏に対し、その動機や理由を尋ねる場面を想像してください。(弊社で実際にあった事例です)
その際、もし「なぜ独立したいのですか?」と質問してしまうと、「時間が自由になるから」「稼ぎたいから」といった一般的な答えが返ってくることも考えられます。そこで、実際には先ほどのパターンを使って、以下のような質問がM氏に投げかけられました。
「最近Mさんが一番独立したいと思ったのはいつですか?」
そうすると、M氏は少し考えてから、次のようなエピソードを語ったのです。
- 少し前に上司から「お前、何年営業をやってるんだ!お前の部下の方がよっぽどできるぞ!」と大勢の前で叱責されたこと。
- その時に、「こういう上司の下で働くのではなく、自分はもっと自由に、本当に尊敬できる人や価値観が似た人と仕事をしたい」と感じて、独立起業を強く考えたこと。
このエピソードから、彼の大きな動機として、「価値観のあった素晴らしい人に囲まれて仕事をしたい」というものが見えてきます。そして、彼自身、そのことに気づくことができるのです。そうなれば、次はそこを深堀りし、「どんな人たちと仕事がしたいのか?」「どんなやりがいや価値観を求めるのか?」といった話に繋げることで、彼のやる気をますます高めることができます。
以上、この事例は大変わかりやすい事例でしたが、ぜひあなたも前述の質問パターンを使って、相手の具体的なエピソードをどんどん尋ねてください。相手は話しながら、自分で様々な気づきを得ていきますし、あなたも、相手の本当の気持ちやニーズに触れることができるでしょう。
2−3、基本3大スキル③:承認すること
続いて3つ目のスキルは「承認」になります。一言で言えば「相手を認めること」なのですが、具体的にどう伝えれば「認めていること」が伝わるのか、その3つの手順をお伝えします。
2、主観的な感想を伝える
3、自分が受けたプラスの感情を伝える
これについては、具体例をご覧いただくのが一番わかりやすいと思うので、承認の例を2つご覧ください。
だから、とても信頼していますし、色々と安心して任せられる方だと思っています。(主観的な感想)
しかも、僕が参考にするだけでなく、新人の指導にも使わせてもらっていて、本当にありがたいんですよ。(プラスの影響)
私は、もともと才能があるような営業マンよりも、ずっと素晴らしいことだと思います。努力によって積み上げてきたものは一生の財産ですし、その努力こそが田中さんの優れたところですよね。(主観的な感想)
この田中さんのお話を聞いて、私自身もすごくやる気になりました。ありがとうございます。(プラスの影響)
いかがでしょうか。人はこのようなステップで自分の行動を認められると、喜びとともにやる気が高まるものです。より良い行動を取ろう、と動機付けられます。ぜひ、ビジネスに限らず、普段の会話に取り入れてみてください。相手の反応が見違えることでしょう。
なお、相手への呼びかけは、「あなた」や「君」ではなく、相手の名前で呼びかけてください。名前で呼ぶことは、その人の存在を認める第一歩です。
以上、これらの3大スキルを、意識的にコミュニケーションへ取り入れるだけで、相手は自ら気付き、気持ち良く動いてくれます。場の人間関係も、随分円滑になるはずです。まずは、この3つ、すぐに試していただければと思います。
3、エンパワーメントの応用スキル
3−1、「語りかけ」によるエンパワーメント
前章でお伝えした「基本3大スキル」は、相手にアウトプットさせ、気づきを与え、承認をすることで相手を“エンパワー”するものでした。それだけでも十分効果があるのですが、この章では、より強いエンパワーメントを提供する方法をお伝えします。
その方法とは、伝えたいメッセージとその関連ストーリーを相手に語りかけることで、相手を“エンパワー”する、というものです。ポイントは、単に伝えたい事実やノウハウを語るだけでなく、そこに体験談や事例等を交えて語るという点になります。これは、特にセミナーなどのように、1対複数でコミュニケーションを取る場面や、相手の様子によって起爆剤のようなものが欲しい時に有効です。
これを実践するには、あなたからの発信の中に、以下の4要素のいずれかを組み入れてみてください。
2、他人の体験談(友人や仲間、著名人・有名人、歴史上の人物など)
3、小説、ドラマ、映画等からの引用
4、一般的な逸話からの引用
もちろん、自分自身の体験談が、一番熱も入り、強いメッセージになりやすいのですが、伝えたい内容に関連するエピソードが常に自分にあるとは限りませんので、上記のように、他人の体験談や、他からの引用でも構いません。これらの要素が、相手に勇気とやる気を与えてくれます。
では、よりイメージを掴んでいただくために、次の事例をご覧ください。
3−2、ストーリーの事例
ここでご紹介するのは、弊社が、セミナーやニュースレター等で「目標設定」をテーマとする際、実際によく用いるストーリーです。
<例> 目標設定について
皆さん、こんにちは。
何事においても「目標設定が大事」ということは、皆さんも重々承知かとは思いますが、あまりにも当たり前すぎて、ついその重要性を忘れてしまうことがありますよね。つい惰性での1日になってしまっている状態です。でも、実は、こんな話があります。
登山における遭難の話なのですが、皆さんは、上りと下りで、どちらに遭難が多いかご存知ですか?答えは、下りです。しかも下りの方が圧倒的に多い、というデータがあります。
確かに、上りの方が体力もありますし、当然といえば当然です。しかし、体力面以外にも大きな理由があるのです。それは、上りの際には、頂上に向かうという確固たる目的がある、という点になります。精神面もその目的に向けて充実しているため、多少の困難も乗り越えていく気力があるのです。
しかし、一旦頂上に達した後、下りの際に、吹雪などの困難へ巻き込まれると、大きな物事を達した後という気力の薄れや、確固たる目的を持たない気持ちの弱さから、最後の最後に心の隙が生まれ、遭難に至ってしまう、というわけです。
そこで、とある有名な登山家は、山を登る際、次に登る山も決めてから登る、と言われています。常に次の目標があることで、いつ何時、極限の状況に追い込まれても、最後の一踏ん張りができるのだそうです。
いかがでしょうか。これが目標設定の力です。目標があるからこそ、限界を超えた頑張りができます。困難に追い込まれても乗り越える力となります。ぜひ皆さんも、常に自らのベストを越えていくべく、いつ何時も次の目標を見据え、ビジネスを前進させていきましょう。
いかがでしょうか。単に「目標設定が大事です!目標を持ちましょう!」と伝えても、当然すぎて頭に入っていきませんが、遭難のストーリーがあることで、情景も浮かび、読み手の印象にも残ります。その結果、聞き手が自分の目標について、あらためて考えるキッカケとなるのです。
実は、セミナーご参加の方々からは、数年の時間がたっていても「あの日の登山の話、覚えていますよ」とお声がけいただくことがあります。ストーリーは記憶に残るのです。それだけ強く相手に伝わる手段だと言えます。
なお、「上手く話すスキルが必要になるのでは?」と心配になる方もいるかもしれませんが、その必要はありません。たとえ少々言葉に詰まっても、情熱を持って語る姿勢や、想いを伝えたいというマインドは、自然と相手に伝わるものです。ぜひ素直な熱い気持ちで臨んでください。
3−3、ストーリーの見つけ方
では、いざ、この方法を実践しようと考えた時、ちょうどよい自分の体験談があれば良いのですが、ない場合には、ストーリーをどう探すかが課題になってきますよね。そこで、その見つけ方を2つご紹介します。
2、インターネットを使って検索する
まず、①の「普段からストーリーや逸話をストックしておく」についてですが、日常生活を送る中で、新聞や雑誌、テレビ、インターネット上の記事など、面白い話だな、ためになる話だな、と感じる話があればストックをしておきます。そして、何かメッセージを効果的に伝えたい場面で、そのストックを眺め、引っ張り出すのです。
次に、もっと即効性のある方法としては、②の「インターネットを使って検索をする」という方法があります。例えば、「目標設定」の重要さをメッセージとして伝えたい場合には、
- 目標設定_名言
- 目標設定_実例
- 目標設定_著名人
などのように、何らかの事例や、有名な話がヒットするような言葉を組み合わせて検索をしてみてください。そこから気になる事例を見つけたならば、次は直接その事例について検索する等、調査を続けていくことで、たいていの場合、使えるストーリーに行き着きます。これはとても手軽で簡単な方法です。
そして、その想像以上の手軽さとは裏腹に、聴き手への効果は大きなものがあります。語りかけにより強く印象に残ったメッセージは、相手を行動へと掻き立てるのです。単にノウハウを伝えることの何倍もの熱意を相手に与える威力があります。また、セミナーや講座のように、聴き手が複数の場合には、場の空気がぐっと締まり、行動が行動を呼ぶような好循環が生まれるのです。ぜひ、ここぞという時には、試していただければと思います。
4、エンパワーメントの活用場面
では、これらの「エンパワーメント」のスキルは、どのような場面で使えるでしょうか。
ここまでお読みいただいた勉強熱心な皆様ならば、もうお感じのことと思いますが、この「エンパワーメント」は、人間関係を円滑にするものとして、ビジネスはもちろんのこと、あらゆる場面で活用できます。営業と顧客、コンサルタントとクライアント、上司と部下、先生と生徒、夫婦・親子・・等々。相手を勇気づけ、行動への背中を押すことは、想像以上に色々な場面で必要とされることなのです。
もちろん、弊社が実際のコンサルティングや各種講座などで、クライアントの方々と接する際も、このエンパワーメントのスキルが非常に高い効果を発揮しています。中でも特に成果を上げている2つの局面をご紹介しましょう。
この「エンパワーメント」の素晴らしいところは、うまく機能すれば、こちらの少しの働きかけで、相手が自ら勝手にどんどん動いてくれる、というところにあります。しかも、相手には「やらされている感」もないので、気持ち良く活き活きと行動してくれる上、場合によっては感謝すらされるのです。成果も付いてきます。結果として、ビジネスは加速することでしょう。ぜひ、あなたも、基本3大スキル(聴く、質問する、承認する)から取り入れていただき、その変化を味わってみてください。
5、まとめ
では最後に、この記事のまとめとして、大事なことをお伝えします。「エンパワーメント」が機能するために、欠かすことのできない大前提です。それは、
になります。
あなたは、目の前の相手に対して、「この人は本当に素晴らしい可能性を持っている人だ」「この人は絶対にうまくいく、成功する人だ」と本気で思い、信じきれているでしょうか。
もちろん、時には「本当にこの人にできるだろうか?」と疑問が頭をよぎるケースもあるでしょう。しかし、それでも、「たとえ時間がかかろうと、必ずうまくいく」とあなたが信じることです。
想像してみてください。仮にあなたが、コーチやコンサルタントを付けたとします。その人から感じる空気が「この人はうまくいかないかもな」というケースと、逆に「あなたは必ずできる!」というケースと、あなたならどちらがやる気になるでしょうか。言うまでもありません。つまり、あなたが相手の可能性を信じる空気は、自然と相手に伝わり、そのこと自体が、何よりも相手を“エンパワー”させるものなのです。
究極のところ、エンパワーメントとは、こう定義できます。
「あなたはできる」と信じて、本気でそのメッセージを伝えること。
ぜひ、あなたもこの「エンパワーメント」の力を活かし、相手の行動を気持ち良く促しながら、ストレスなく、ビジネスの加速と充実を手に入れてください。そして、ビジネスのみならず、様々な場面で豊かな人間関係を築きあげていただければと思います。
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鈴木理美
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