「メラビアンの法則」の誤解を解いて、“伝える力”を飛躍的にアップさせる方法
非言語コミュニケーション・・・「言葉」以外の要素、すなわち、声のトーンや大きさ、ボディランゲージや見た目の印象・・・の重要性を説いた法則として有名な「メラビアンの法則」。「人は見た目が9割」と言われる根拠にもなっている法則ですが、実は間違った解釈&拡大解釈されていることをご存じですか?その誤解を解き、「メラビアンの法則」を上手く取り入れ、コミュニケーション力を上げながら、“伝える力”をアップさせる方法をお伝えします。
目次
1.「メラビアンの法則」とは
「メラビアンの法則」は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)心理学名誉教授であるアルバート・メラビアンが、彼の著書『 Silent messages(邦題:非言語コミュニケーション)』の中で発表した、「コミュニケーションの際、話している内容と、声のトーンや態度に矛盾があった時、人はどんな受け止め方をするか?」ということを研究し、法則化したものです。「7-38-55のルール」「3Vの法則」などとも呼ばれています。
1−1.「メラビアンの法則」の理解
簡単な例を挙げれば、
・「楽しいね」と言葉で発している(言葉の内容)
・だが、声のトーンが沈んでいたり、つまらなそうである(声の大きさや調子)
・カラダの状態はうつむき加減で、肩を落としている(カラダの状態:ボディランゲージ)
この場合に、相手にどんな風に伝わるのでしょうか?動画でも解説してみましたので、是非、ご覧ください。
メラビアンの法則によると、相手に伝わるのは、
- 言語情報(Verbal:7%):話の内容、言葉そのものの意味
- 聴覚情報(Vocal:38%):声の質・速さ・大きさ・口調
- 視覚情報(Visual: 55%):見た目・表情・しぐさ・視線
・・・という割合になっています。
いかに言葉で「楽しいね」と言っても、声のトーンや大きさがそれに矛盾した「つまらなそう」なものであれば、それは「つまらない」と相手に伝わる割合が高く(38%)、ボディランゲージや見た目がつまらなそうであれば、さらに「つまらない」と相手に伝わる割合が高い(55%)、ということなのです。
この割合から、メラビアンの法則は「7-38-55のルール」とも言われ、「言語情報=Verbal」「聴覚情報=Vocal」「視覚情報=Visual」の頭文字を取って「3Vの法則」とも言われています。
■メラビアンの法則は「非言語コミュニケーション」の重要性を説いている。
- 「話の内容そのもの(言語情報)よりも、声のトーンや大きさ(聴覚情報)の方が
相手に伝わる影響力が大きい。」(38%) - 「話の内容そのもの(言語情報)よりも、ボディランゲージや見た目の印象(視覚情報)の方が相手に伝わる影響力が大きい。」(55%)
2005年に出版され100万部を超えるベストセラーとなった竹内一郎氏の著書『人は見た目が9割』は、このメラビアンの法則の解釈をベースに題名がつけられている、と言われています。(38%+55%=93%)
1−2.「メラビアンの法則」の誤解
しかし・・・・この「話の内容よりも、声のトーンや大きさ、ボディランゲージの方が相手に伝わる影響力が大きい」というのは、メラビアンの法則の誤解された解釈であり、拡大解釈なのです。
「メラビアンの法則」は
・「話の内容は7%しか相手に伝わらない。だから、内容以前に見た目が大切。」
・「いくらいい話をしても服装や表情次第で信用してもらえない。印象が悪くなる。」
・「話す内容よりも、声のトーンや大きさ(話し方のテクニック)が重要」
・「アイコンタクトやボディランゲージが大事」
・「服装などの見た目が重要、第一印象で決まる」
・「プレゼンでは、図式化したり、パワーポイントの作り方などの見せ方が大切」
・・・と言ったことの根拠として引用されています。
就職活動の面接対策セミナー、営業セミナー、コミュニケーションセミナー、自己啓発書、話し方教室などの正当性にも使われています。でも、これはメラビアンが行った本来の実験・研究とは異なる誤解された解釈なのです。
2.「メラビアンの法則」の真実
メラビアンの法則の「7-38-55のルール」は、彼の実験・研究結果が誇張されて、勝手な解釈が加わっています。実は、メラビアンが行った実験は、“ある限定された状況下”で行われたものなのですが、それが、どのような状況にも当てはまるかのように一般化された状態になっています。
以下が、実際にメラビアンが行った実験内容です。
■メラビアンが実際に行った実験内容
-
- 1.メラビアンが行ったのは、感情や態度(すなわち、好意や反感)の伝達を扱う実験であった。すなわち、一般的な会話や事実を伝える、要望を伝える、指示命令をするなどのコミュニケーションの場合は当てはまらない。
-
- 2.メッセージの送り手が、“どちらとも取れるメッセージを送った状況下”での実験であった。
メラビアンの実験は、あくまでも「好意・反感などの態度や感情のコミュニケーション」において「メッセージの送り手がどちらとも取れるメッセージを送った」場合、「メッセージの受け手が声の調子や身体言語といったものを重視する」ということが導き出されたに過ぎません。
コミュニケーション全般においてこの法則が適用されるというような解釈はメラビアン本人が提唱したものとはまったく異なります。メラビアン自身も、「好意の合計 = 言語による好意7% + 声による好意38% + 表情による好意55%」という等式は好意・反感などの態度や感情のコミュニケーションを扱う実験から生み出されたものであり、話者が好意や反感について語っていないときは、これらの等式はあてはまらないと言っています。
結論です。
「好意や反感などの感情を伝えるコミュニケーション」という特定の状況下において、言語情報と聴覚情報と視覚情報が矛盾した場合、相手が重視するのは
- 『言語情報:メッセージの内容』が7 %、
- 『聴覚情報:声のトーンや口調」が38 %、
- 『視覚情報:ボディランゲージや見た目』が55 %
であった。
これがメラビアンの法則の真実、と言っていいでしょう。
メラビアンが実験で確かめたかったのは、「視覚」「聴覚」「言語」で矛盾した情報が与えられたときに、人はどれを優先して受け止め、話者の感情や態度を判断するのか?ということ。そして、その結論は、「好き嫌いなどの感情的なコミュニケーションを取る場合、言っていることと声のトーンやボディランゲージに矛盾がある時、人は、言っている内容よりも、声のトーンやボディランゲージで表現されているものを信じる。」ということなのです。
参照:メラビアンが実際に行った実験結果(詳細)
- 「好意」「嫌悪」「中立」をイメージする言葉を3つずつ設定する。
(例えば、「好意」は、“honey”といったようなもの。) - これら9つの言葉を「好意」「嫌悪」「中立」の3つのイメージで、それぞれを録音する。
- 「好意」「嫌悪」「中立」を表した表情の顔写真を1枚ずつ用意する。
- 録音と写真をさまざまに矛盾した組み合わせをつくって被験者に示し、それぞれについて被験者が最終的に「好意」「嫌悪」「中立」のうちのどの印象を持ったかを質問する。
- 「怒った顔の写真」を見ながら「不機嫌な声」で「ありがとう」という好意的なメッセージを聞かされた時、受け手側が、話して側の感情を「好意」と判断したら、「言葉」のインパクトが強い、と判断される。
※メラビアン自身がこの実験結果を一般的なコミュニケーションには適用できないという発言をしている。「私の研究は誤解されている。コミュニケーションにおいて、言葉の伝達力がたったの7%だなんて馬鹿げたことがあるわけがない」
※視覚情報として示されるのは写真だけであり、表情などの動きなどはない。
※言語情報も単語のみで、前後の文脈はない。
3.「メラビアンの法則」で“伝える力”を倍増させる
メラビアンの法則は、「コミュニケーションにおいては、言語情報よりも非言語情報が重要である。」ということを説明するために一部を抜き出されて使われている傾向があります。最近であれば「中身よりも見た目が大事」ということの根拠として用いられています。これは確かに拡大解釈であり、メラビアンの法則の真実とは異なります。では、メラビアンの法則は役に立たないもの、使えない法則なのでしょうか?
私は、このメラビアンの法則を最初に聞いた時、「話の内容が7%というのはちょっとどうかと思うけれど、話の仕方や声のトーン、見た目やボディランゲージも、コミュニケーションを図るときには重要なんだな。」と納得したものです。
このメラビアンの法則の中には、「コミュニケーションの際の『伝える力』をアップさせるための重要なポイント」が隠されている、と私は思っています。
3-1.「3つのV」を一致させる
「3つのV」(Verbal・Vocal・Visual)を一致させることで、メッセージはあなたの意図通り、より正しく、強く伝わるようになります。
コミュニケーションを「言語情報」「聴覚情報」「視覚情報」に分けて捉えたことはメラビアンの大きな功績です。効果的で伝わるコミュニケーションをするためには、これら「3つのV」が互いに補完しあう必要があります。そして、3つが一致する時、伝わる力がアップします。楽しい話をする時は、楽しそうな声で、楽しそうな身振り手振りで話をする。その時、最も「楽しさ」が伝わるわけです。
これはコミュニケーションの基本ですが、意識して出来るようになれば、あなたの「コミュニケーション力」「伝える力」は確実にレベルアップします。一方で、不一致や矛盾が発生した場合は、受け手側は違和感を覚え、不信感が高まります。これは、あなたがコミュニケーションの受け手である場合でも同じです。
例えば、部下の話を聞く時、他のことをしながら適当な相づちを打って曖昧な返事をしていると、部下のあなたへの不信感がどんどん高まっていきます。「俺はきちんと話を聞いているのに、部下がなかなか信頼してくれない・・・」という方は、是非、「聴覚情報」「視覚情報」も意識してみてください。
3-2.非言語コミュニケーションを上手く使う
「見た目が9割」はメラビアンの法則の拡大解釈ですが、内容だけでなく、話し方や態度にも注意を払うことが重要である、というのは的を得ています。「非言語コミュニケーション」の重要性を指摘したことはメラビアンの功績です。
9割という数値化はできませんが、「非言語コミュニケーション」は間違いなく「伝える力」に大きな影響を及ぼしています。その意味では、「プレゼンの仕方」「話し方」「身だしなみ」「ボディランゲージ」を学び、スキルを高めることは意義のあること、と言えます。
3-3.メッセージの質を高める
コミュニケーションはメッセージ(言語情報)ありき、です。非言語コミュニケーションが重要とは言え、「メッセージの質」を高めることは不可欠です。コミュ二ケーションの一つの目的はメッセージを伝えること。メッセージ自体が弱いもの・意味のないもの・価値のないものであれば、いくら非言語コミュニーションを強化しても、相手に伝わりませんし、記憶に残りません。特に、プレゼンなどのコミュニーションはこの「メッセージ(言語情報)」が重要です。メッセージの質を高め、その上で「非言語コミュニケーション」を強化していけば、「伝わる力」は倍増していくはずです。
4.「メラビアンの法則」を人に説明する場合
最後に。私は、コーチングなどのコミュニケーション系のセミナーを行うことも多いのですが、その際は、メラビアンの法則をこんな風に引用しています。参考までにご紹介しますね。
「コミュニーションの有名な法則で『メラビアンの法則』というものがあります。これは、相手にメッセージを伝える時、言語情報(内容)が7%、聴覚情報(話し方等)が38%、視覚情報(見た目・ボディランゲージ等)が55%の重要度を持っている、という法則です。これはかなり限定された状況下での法則なんですが、単に話す内容だけでなく、話し方や見た目、ボディランゲージにも意識を向けましょう。ただ、基本はやはりメッセージそのものの力です、メッセージをとにかく磨いてください。その上で、話し方や見た目、ボディランゲージにも意識を向ければ、よりそのメッセージは強く、正しく伝わります。」
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北野 哲正
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