コーチングは『聴く』ことが大切・・・という事は頭では理解していても、実際のコーチングの場面になると、ついつい話しすぎる・・・
そう悩んでいるコーチは、案外多いです。特に、コンサルの経験が豊富で、『情報提供』を主体にしてきた方ほど、『ついつい言いたくなる病』を持っています。
ときには情報提供することも大事ですが、コーチングはやっぱり、『聴く』ことが主体です。
何故なのか?
それは、コーチは『クライアントにオートクラインを起こさせる』ことによって、クライアントに気づきを与えられるからです。
今回の記事では、『聴く』の意識を高めるために『オートクライン』『パラクライン』『リセプター』といった、人間の細胞の働きになぞらえてお伝えしていきます。
これを理解すれば、コーチングで『聴く』ことが当然の行為で、その効果の高さを理解できるようになります。それでは、本文へと移っていきましょう。
目次
『会話』とは、とても面白い行為だなぁと感じることがあります。
相手と話しているうちに、思いもよらない方向に話が展開したり、全然考えたことのなかったアイディアが出てくること、あなたにもありませんか??
私たちが日常で触れているすべてのものは、まず頭の中で作られて、それを具体化してく・・・というプロセスを経て出来上がっていきます。
飛行機、スマートフォン、大きなビルや流行のアプリやゲーム、抽象的なものでは価値観やあらゆる問題の解決方法など、今この世にあるものは、もともと誰かの頭の中にあったものが形となって具現化したものと考えることも出来ます。
もちろん、クライアントの頭の中の仕組みも、これと同じなんです。
私たちは会話の最中、自分の頭の中にある情報を相手に伝えようと試みます。これは私たちの体の中でも細胞レベルで起こっている現象になぞらえて『パラクライン』と呼びます。
『パラクライン』とは、ある細胞が分泌物を出し、それを別の細胞の受容器がキャッチし作用が促される現象のことです。まさに情報を他人に伝達するという行為そのものです。
そして、パラクラインと同時に『分泌物を出した細胞自身』に作用する現象があることも分かっています。これを『オートクライン』と呼んでいます。
会話に置き換えると、自分が相手に対して喋っているにもかかわらず、そのアウトプットによって自分自身が「自分はこんなことを考えていたんだ」と認識したり、「私がやりたいのはコレだ!」と発見したりすることと言えるでしょう。
人は、誰かと会話をしている時に、相手に言葉を届けるだけでなく、自分自身にも届けているのです。脳内にある思考を言語化しアウトプットすると、『オートクライン』が起こり、新たな気づきや発見が自分の中で起こるのです。
コーチングでは、クライアントに話させることで、『オートクライン』を意識的に起こしていきます。コーチングで『聴く』ことが最重視されるのは、コーチがクライアントの話を聴くことによって、クライアントにオートクラインが起こるからです。
コーチが一方的に言葉を発しているだけでは、クライアントは新たな気づきや発見を得ることはできません。アイデアを出したり、それを具現化するためには、クライアントが自ら言葉を発することが必要なのです。
コーチは、クライアントのゴール達成のために、クライアントの持っているリソースを活用していきます。その『持っているリソースの真の価値』に気づかせるのも、オートクラインによって行えます。
人は言葉を発することで、自分の思考を再認識します。誰かに伝えようと、頭の中の思考や感情、感覚を整理し、言葉にしていくことで気づきを得るのです。
コーチングで『ついつい話しすぎてしまう』のは、コーチ側の単なるエゴです。クライアントにしてみれば、押し付けられたアイディアの90%は実行しません。コーチが懸命に話しても、クライアントのためになっていない場合がほとんどでしょう。
一方で、クライアント自身の言葉から出てきたものは、クライアントが考えた『自分自身のアイディア』。説得力が高く、実行されやすいです。実行されるということは、結果につながる可能性が高いのです。
細胞の話に戻ると、ある細胞から出た分泌物を『受け取る』役割を果たす器官があります。その受け取る器官は『リセプター』と呼ばれています。日本語で、受容器や受容体と表現されているものです。
リセプターは、分泌物全てを受容しているわけではなく、取捨選択して必要なものだけをキャッチしています。
この仕組みもまた、会話と同じです。
人はそれぞれ、考え方や受け取り方が違います。端的に言えば、話を聞くときには、自分に関心のあることだけを聞いています。自分に都合の良いことや、あるいは逆にネガティブな情報を強く脳に定着させる性質を持っています。
占い師がいい加減なことを言ったとしても、自分に当てはまっていることのみを強く記憶し「あの占い師はすごい」と考えたりします。「マーフィーの法則」もその類と言えるでしょう。
ですから、同じ話をしたとしても、人によって『受け取るもの』が違うのです。それは、本人の趣味・思考・考え方、習慣や興味の方向性によっても変わってきます。
ペットを飼おうか迷っている人は、街中のペットショップや、犬を散歩させている人がやたら目につくでしょう。新しい車が欲しいと思っている人は、街中の車ばかりが気になって仕方がなくなります。
こうした現象は、その人たちが、それぞれの物や興味に対してのリセプターが反応したために起こります。興味がないものであれば、いくら情報が入ってきても気にはなりません。全ての情報に敏感に反応していては生活できないのと同じで、人の脳はリセプターに反応する情報のみを視覚や聴覚によって受け取るようになっているのです。
これをコーチングという観点から見てみると、どう解釈できるでしょうか。
コーチの話を聞いたり、クライアントのオートクラインが起きるにしても、受け取れる情報はクライアントの自分自身のリセプターに委ねられています。
人は興味のない話をされてもピンときませんし、深く考えようともしない作りになっています。コーチがいくら含蓄のある言葉をクライアントや部下に伝えても、その内容に関する受容体がなければ、何も響きません。
コーチはクライアントや部下との会話を通じて、リセプターが何に反応するのかを早い段階で掴み取り、そこに届くようなコミュニケーションを取ることが求められます。
また、リセプターを強化させるのもコーチングアプローチのひとつです。過去の習慣や固定観念で、情報が受け取れなくなっていると気づいたら、リセプターを新たに作ったり、活性化させて『新しく受け取れる』ようにするコーチングも効果的です。
戦略で言うと、『ブレーキを外す』がこのアプローチですので、こちらの記事も合わせてお読みください。
コーチングは『聴く』が主体のコミュニケーションとされていますが、それは『オートクライン』の効果を狙っているものだからです。
コーチ側が長く・多く話してしまうのは、コーチのエゴにすぎません。『聴く』を主体にして、クライアントが自ら気づける環境になるのが、コーチの真の役割で、あるべき姿です。
新たなスキルを学ぶことよりも、この本来のコーチングの姿を理解することによって、あなたのコーチングスキルは2段階UPしていくことは間違いありません。
そして、必要に応じてオートクラインをより強化するために、相手のリセプターを強化するアプローチも行っていきましょう。
マーケティングコーチ
千葉大学工学部卒業後、IT企業にて10年間、商社向けの基幹システムの運用/保守・改善業務に携わる。
2012年にコーチングを学び始め、2014年よりコーチとしての活動を開始、2017年に独立し、個人事業主・起業家の売上UP・web集客などを支援する。
コンラボには2016年よりライターとして、2018年より社内コーチとして参画。
著書に「習慣化を成功させる本」「自分と可能性を育てるチャレンジの習慣」がある。
趣味の将棋はアマ三段&将棋普及指導員。
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