コーチングの効果を最大化するためには、それに適した環境が必要になります。その一つが、『コーチングを受ける者の役割の明確化』です。
企業や組織の中で仕事をする人には、それぞれ役割が存在しているはず。部門ごとにも異なるかもしれませんし、チームごとにも異なったミッションや目標、目的などがあるでしょう。さらに個人個人にも当然求められる役割があるはずですが、それを具体的なものにしなければコーチングの効果は高まりません。
野球というスポーツを考えてみましょう。
1番バッターに求められるのは、塁に出ることです。そのため出塁率の高い選手や足が速く塁に出やすい、あるいは塁に出た後にホームまで帰ってきやすい人が選ばれます。
2番バッターは、塁に出たランナーを進塁させるための役割が求められます。器用さが必要となり、選球眼も持っていなければいけません。
3番から5番までのクリーンナップはランナーを返すための長打力が求められます。ホームランを含めたヒットを打つ役割が与えられているわけです。
このように、それぞれが具体的な役割を持ち、個人個人がそれを理解しているからこそ“打線”となり、1つの攻撃が機能し、得点へと結びつくのです。
誰だってバッターボックスに立ったら、ホームランを打ちたいと思うでしょう。しかし、通常1番バッターや2番バッターはそうした役割ではなく、特に後者は自らを犠牲にしてまでバントをすることもあります。なぜでしょうか、当然、それが自分の役割だと認識しているからです。
仕事も同じでしょう。ただ業務をこなすだけではやりがいが感じられなくても、その業務がチームや部署や企業のためとなるのであれば、ちょっとした苦労は受け入れようという気持ちになるはずです。さらには、自らに与えられた役割をこなすために必要なことにも考えが及ぶでしょう。自発的に動き出すために欠かせない思考へと至ることが期待できるのです。
部下に「言われたことはできるけど、言われた以上のことはできない」と、言われたことはありませんか。言われたことすらできない人よりはいいかもしれませんが、上司としては、このような部下にも非常に手を焼くことになるでしょう。
上司は、仕事や業務に関する指示は出しているはずです。しかし、部下本人が自らの役割や責任に対して明確な答えを持っていないため、その指示以上のことができないのです。これは部下にも問題があるかもしれませんが、コーチングする立場である上司にも問題があると言わざるを得ません。
通常は、明確な役割や責任、目標などを与えられれば、そこに自らの存在意義や働く意味を感じ、自分の頭で動き方や解決策などを考えるようになります。その組織やチームの中になくてはならない存在として自らを位置づけることができるためです。
承認欲求も満たされることになりますし、「自分がやらなければ!」という強い意志も芽生えるようになるでしょう。
逆に明確な役割や責任、目標などが与えられないままであれば「自分など、いてもいなくても変わらない」と思ってしまうので、仕事そのものにもやりがいを感じることができません。
こんな話があります。
あるエンジニアは、とても真面目で会社や上司から与えられた仕事を毎日懸命にこなしていました。しかし、ある日体調不良で出社できない状態になってしまいました。医師に診てもらったところ、精神的に病んでおり、うつ病の傾向があったとのこと。
このエンジニアは、仕事は与えられたものの、役割や責任を与えてもらったわけではなく、言われた業務を日々淡々とこなしているだけの毎日だったそうです。つまり、自分の置かれている状況や仕事などに意味が見出せず、次第に精神を病んでいってしまったわけです。
もし、業務とともに、それをやる意味やそのエンジニアの役割、責任、立ち位置などを明確にし、具体的な目標なども掲げながら仕事を与えていたら、状況は変わっていたかもしれません。なぜ毎日こんな仕事をしているのかと不満を持つこともなく、使命感を持って業務に取り組むことができたでしょう。
役割や責任というのは、それほど重要なものなのです。仕事をする側にとっては自己実現や自己価値の上昇につながることなので、上司はそれを意識して組織やチームを構築しなければなりません。
従業員を働く気にさせるのは、精神論や根性、厳しい指導などではなく、こうした役割や責任などの明確化であると認識しておくべきです。
もしこうしたことができなければ、優秀な人材は育たないでしょう。真の意味で優秀な人は、役割が不透明で曖昧な企業からは離れていってしまうはずです。なぜなら、優秀な人はあらゆる企業や業界から引く手数多だからです。
役割を明確にすることで責任も生じるわけですが、その責任の所在がどこにあるのか、これも明確化することに繋がります。もし問題が起こった際に責任の所在が明確でなければ、それを他者に押し付け合い、結局解決できないままとなり、同じことを繰り返してしまうでしょう。そのような企業に成長や繁栄などあるわけがありません。
しばしば“ホウレンソウ”といった標語で表されることのある報告・連絡・相談ですが、上司は部下にこれを求めるはずです。部下も当然理解しているでしょう。しかし、役割や責任が曖昧なままだと、報告や連絡、そして相談をするほどのことなのか判断ができない状況が生まれます。責任が自分にはないと感じていれば、そうした行動がないがしろになるのは当たり前のことです。
もし報告や連絡、相談などを部下に求めるのであれば、部下に自覚を持ってもらう必要があり、それが役割や責任などの明確化であることを上司は認識しておくべきです。全てはその環境を整えるところから始まると理解しておきましょう。
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