コーチングに必要な環境を整えるには、いくつかの要素を強く意識し、時にはそれらを作り上げなければいけません。
企業などの組織やチーム、そこに属しているそれぞれの従業員が具体的なビジョンを持つことも、その要素の一つとなるでしょう。組織内でコミュニケーションが活発に行われるような環境も必要です。さらには、上司が部下の役割や責任を明確にしてあげることも、コーチングにより従業員のポテンシャルを引き出すための重要な要素となります。
さらにそこに加えておきたいのが、『目標の設定』です。
多くの企業や部門などでは、年度の最初に目標を掲げます。しかし、時間が経つにつれてその目標を意識しない企業やチーム、あるいは人などが現れるのです。
具体的な数値目標を掲げるであろう生産業や営業職などにおいて、目標がいかに重要であるかは認識しているはずですが、その目標をクリアするために何をすべきかなど、具体的な道筋を見出さないままに運営されている組織も存在しています。目標を掲げて終わり、という企業も少なくありません。
おそらくですが、そうした企業に勤めている従業員に、「今年度の目標をどこに置いていますか」と聞いても、具体的な答えは返ってこないでしょう。もしかしたら、「確かに目標は立てましたが、覚えていません」と答える人もいるかもしれません。
そのような企業では、誰に聞いても同じような内容の返答となるのではないでしょうか。つまり、そうした企業風土になっているため、目標を掲げること自体がイベント化し、そこに意味など込められてはいないのです。
目標は、何のためにあるのでしょうか。それは、目標に近づく、あるいは達成するためです。さらに言えば、具体的な目標があるからこそ人は努力をし、自分の能力を引き出すことが可能となるのです。
目標を覚えていなければ、当然努力のしようがありませんし、ポテンシャルを引き出すこともできないでしょう。
ここで、一つ質問をしてみたいと思います。
あなたは、目標を設定することに意味を感じ、好んでそれをすることができますか。
答えが「YES」であれば、何か物事を始める時にも、自然と目標を掲げてきたのではないでしょうか。具体的な数値目標、やり遂げたいことがあり、あるいは目標とする人物がいるのかもしれません。
答えが「NO」であれば、目標はそれを立てることを強要されるものであり、自ら掲げるものではないと考えていることでしょう。
後者であれば、ここで認識や意識を改める必要があります。企業や従業員にとって、目標はなくてはならないものです。成長したいのであれば、なおさらでしょう。
目標は、嫌々掲げるものでもありません。目標を立てることを楽しいと思えなければいけませんし、そこまでの道のりにもやりがいを感じる必要があります。そうした目標設定の仕方を促すことが、優れたコーチの条件と言ってもいいでしょう。
目標を掲げ、それに向かって努力をしている人は、必ず達成感を感じています。「できないことができるようになった」、「去年よりも良い成績が挙げられた」、「新しいテクニックやスキルを身につけられた」、「試験に合格できた」、「たくさんの人脈を築くことができた」などです。こうした成功体験を積み上げることができるのは、具体的な目標をあらかじめ掲げていたからこそなのです。
これほど人生を豊かにする出来事はあるでしょうか。仕事上での達成感や成功体験が、人生そのものを輝かしいものに変えると考えれば、どれだけ目標を設定することが重要であるのかがわかるはずです。
しかしこれは、上の質問に「NO」と答えた人では、感じることのできないものであることも認識しておきましょう。義務的に目標を設定させられたところで、それに対する意欲が湧くはずもありません。「目標が達成できないと怒られる」とネガティブな思考に陥るケースも出てきます。
そうした思考では自らの判断で動くことができず、新しいことにも挑戦はできません。もちろん目標は達成できずに、いつまで経っても成功体験を得ることができないままになってしまうのです。
上の質問に「YES」と答えた人でも、注意しなければいけないことがあります。
掲げた目標に近づくための過程を楽しみたいと考えている人の場合、あまりにも目標を意識しすぎると、目標達成しなければならないと義務感が生じ、「NO」と答えた人と同じような状態に陥るリスクがあるのです。
部下が目標達成の過程を一生懸命こなそうとしているにもかかわらず、目標に届かなそうだからといって上司が目標を強烈に意識させるような行動に出ると、しばしばこのような現象が起こりがちです。少なくとも、コーチとしてその上司は優秀とは言えないでしょう。
優秀なコーチは、部下たちに目標を持たせますが、その部下たちが目標の設定の重要性に気付くようなコーチングを行います。義務的な目標設定ではなく、自発的に目標を設定し、そこに意味を持たせるよう促すのです。
人それぞれ目標に対する向き合い方も異なるわけですから、それが否定されるような環境を上司が作ってはいけません。目標の達成は重要ですが、そこまでの過程を楽しむタイプの部下に対してはそれを否定することなく、むしろ認められる環境を作り上げるべきでしょう。
複数の部下をまとめる立場にある上司がコーチングを行う場合、全体をまとめるためのコーチングと、部下個人個人がポテンシャルを発揮するためのパーソナルなコーチングを使い分けなければいけません。
チームとして掲げた目標が達成できれば、その上司はさらに上の立場の人間に褒められるかもしれませんが、もし部下に目標を達成することを義務付け、そのためだけに仕事をこなすような教育をしていたのであれば、それはコーチングではなくティーチングの範疇にとどまるでしょう。必ずそこには限界が訪れます。この先の成長はないと認識しておくべきです。
コーチは、部下とそれぞれの目標との関係性を良好なものとし、部下が目標と常に良い関係で向かい合えるような環境を作らなければいけません。そうした土台作りも、優れたコーチングの一部となるのです。
環境を作り上げることもコーチングの一部です。もし環境がしっかりと作り上げられれば、コーチングも随分と楽なものになり、しっかりと成果が出てくるはずです。
土台を作るのには苦労するかもしれませんが、コーチングがしやすい環境を整え、コーチとしての手腕がより発揮できるような組織を作り上げることに、まずは注力してみましょう。
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