上司は部下を、コーチはクライアントを、それぞれ褒めることにより人間関係を強固なものとし、そこに信頼を生み出す効果も期待できます。
しかし、褒めることに依存し過ぎるのも良くはありません。馬鹿の一つ覚えのように褒めることしかしなければ、それはそれで部下やクライアントのポテンシャルを潰すことになりかねないので注意しましょう。
もし子供や部下が周囲の人に対して問題のある行動を取っていたらどうでしょうか。褒めることが正しいコーチングであると思い込み過ぎてしまうと、こうした問題に対して適切な指摘をすることができなくなってしまいます。
褒めることは、部下などの成長に不可欠ではありますが、それにより自分勝手な行動に出たり、周囲を巻き込むようなトラブルを巻き起こしたりしてしまうことになれば、組織を正常に動かすことにも支障が出てきてしまうでしょう。
褒めることや、相手の言動からポジティブな要素を見つけ出し認めることは、あくまでも本人の成長に繋がる場合のみ行うべきで、それ以外の場面で多用することは控えるべきなのです。
「関係性が壊れるのが怖いから、つい褒めてしまう」
「相談したりアイデアを出したりしてくれないと困るから、褒めるしかない」
と上司やコーチが考える必要はありません。
それは部下のためを思ってのことではなく、完全に上司自身が保身のための思考に陥ってしまっている証拠です。
褒めることが過剰になると、どうなるのでしょうか。人によっては調子に乗り、上司やコーチでも制御がきかなくなってしまうかもしれません。それ以上に組織としてダメージが大きいのが、能力がある人ほど褒められることに違和感を持ってしまうというケースです。
「褒められたら、例外なく嬉しい」と感じる人は、おそらくとても単純な思考の持ち主です。悪い言い方をすれば、何も考えていません。しかし、優秀な人は違います。上司の言葉にどのような意味が込められているのか、その裏を探ろうとするのです。
褒め方が度を過ぎると、「この人は自分のことを褒めて、操ろうとしているのではないか」と感じさせてしまうでしょう。“豚もおだてりゃ木に登る”という表現がありますが、上司が部下である自分に対して、「褒めれば調子に乗ってもっと仕事をしてくれるだろう」と考えているのではないかと勘ぐってしまうのです。
一度そう感じてしまったら、上司の褒め言葉に何も感じなくなるどころか、不快に感じてしまうかもしれません。これでは行動は促されませんし、「もっと努力して良い仕事をしよう!」という気持ちも湧いてはこないでしょう。
コーチにとって重要なのは、ただ単に褒めることではなく、部下の行った仕事に対して理解を示すこと。もし成果があればそれを指摘しながら認め、その理由等を確認することです。もし問題点や課題があれば、それについては怒るのではなく、問題点や課題点と、それを解決する術を考え、確認することなのです。また、それらを共有することもコーチの重要な役割となります。
人は「無条件の承認」を欲する傾向があります。成果を出したのであれば、成果を生み出した自身に対する「祝福」も自然と望んでいるものなのです。
それが周囲の人やチーム、組織などに利益をもたらしたのであれば、そのことも実感したいと多くの人が思うことでしょう。
もしそうしたことを与えられれば、その人は次の成果を求めて何の疑いも持たずに動き出すことができるはずです。コーチングの勝利の瞬間と言えます。
過剰に褒めちぎってしまう前に、上司は部下に対して、まずは以下のことを実践するよう心がけてみてください。
・日常的に部下の存在を認めること
・成果を出せば祝福を表現すること
・ポジティブな表現、特に喜びや感謝を言葉で伝えること
・成果が出た理由を確認し共有すること
単純に褒めるということと区別し、上記を意図的に行うことで部下やクライアントの欲は満たされ、さらに仕事に邁進するはずです。
褒め過ぎてはいけないということは、時々は叱らないといけないという意味でもないので勘違いしないようにしてください。あくまでも承認や祝福、ポジティブな表現や成果の共有により、褒めることとは別の形で自己肯定感や存在価値を見出してもらう、これがコーチングの重要な手法の一つとなるのです。
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