コーチングでは、相手の自由回答を引き出す質問をオープン・クエスチョンと呼びます。それに対し、「YES/NO」で答えさせる質問をクローズド・クエスチョンと呼びます。
さらにこの質問を細かく分けると、
・YESかNOかを尋ねる質問
・YESを引き出す質問
・NOを引き出す質問
・意見を自由回答で尋ねる質問
・自由回答で事実を尋ねる質問
・選択肢を選ばせる質問
・数字で答えさせる質問
の7つになります。これらの質問を効果的に使い分けることができれば、コミュニケーション能力やコーチング・スキルを向上させることができます。ひとつひとつ、詳しく見ていきましょう。
クローズド・クエスチョンは「〜か?」で終わる質問が代表例で、日常の会話でも自然に用いられています。このような質問は、事実関係を確認したい時や部下の意思を明確にしたい時などに使います。
例えば部下のレポートが完成したかどうかを知りたい時、「レポートはどうなっている?」と聞くと、部下は「進めています」「もう少しです」などと答えるでしょう。これでは具体的にどこまでレポートが進んでいるかわかりません。
しかし「レポートは印刷できているか?」と聞けば「はい」もしくは「いいえ」と答えてくれるはずなので、作業の進行段階を確認することができます。ただし連発しすぎると尋問や詰問のようになってしまうので、使い方には注意が必要です。
また、この質問は命令を依頼に変える力もあります。「レポートを明日までに仕上げるように」と言うと上司からの命令になってしまいますが、「レポートを明日までに仕上げてくれますか?」とYES/NOで答えられる質問にすれば、強制でなくなるのです。
どうしても引き受けて欲しい依頼をしたい時には、後述する「YESを引き出す質問」を使うことになりますが、NOという選択肢を残した上で部下に質問すると、自発性を引き出すことができるのでおすすめです。
「〜か?」ではなく「〜ね?」という質問は、念押し・確認の効果を持ちます。先ほどの例なら「このレポートを明日までに仕上げてくれますね?」と聞くのです。この質問をすると、部下の立場であればNOとは答えにくいでしょう。
「上司の期待に応えて評価されたい」という思いも生まれますし、「仕上げられるかどうか不安だ」という迷いを吹っ切る効果もあります。ただしあまり「〜ね?」の質問を多用してしまうと、押しつけがましい印象になってしまうことも。ここぞという場面でのみ使うようにしましょう。会議の最後に合意事項の確認をする時や、部下の目標に対して責任の自覚を促したい時などです。
会議の最後に「来期の目標は○○ということでいいですね?」といった使い方をすると良いでしょう。会議で決めたことの確認もできますし、相手の目標達成に向けてのやる気を向上させることもできます。
このYESを引き出す質問には、「許可取りのスキル」というひとつのバリエーションもあります。これは提案や助言をする際にワンクッションとしてYESを引き出す質問を挿入するという手法です。
例えば「一つ提案してもいい?」「良いアイディアがあるから聞いてくれる?」といった風に使います。こう言えば、普通部下はYESと答えるでしょう。このYESの返事が部下にとってアドバイスを受け止めるための、心の準備になるのです。質問をする前に「質問してもいいですか?」と尋ねることも、有効です。
YESを引き出す質問の反対で、NOを引き出すための質問もあります。例えば「もうこの仕事を辞めたいのか?」と上司が問えば、部下は「そんなことはありません……」と答えるでしょう。このように必ずNOが答えとして返ってくるような「極端な質問」を投げかけ、部下の行動を導くアプローチが「NOを引き出す質問」です。
このタイプの質問は、部下のやる気を高めたい時や、部下を奮起させたい時に使いましょう。やや刺激的な問いかけをすると、部下が行動を起こすきっかけを作ることができるからです。負けん気を刺激すると言ってもいいかもしれません。
「いくら君でも、来週までにレポートを仕上げるのは無理だろうね?」と言われたら、部下は「いえ、不可能ではありません」と答え、レポートを仕上げてくるでしょう。相手の自尊心やプライドにはたらきかけることで、意欲を引き出せるのです。
ただし問いかけ方によってはプレッシャーをかけてしまうこともあるので、使い方には注意してください。「NOを引き出す質問」をしたら、部下の本音がどこにあるのかを見極め、状況に応じて適切なフォローをすることも必要です。
YESかNOで答えられる質問ばかりしている状態は、コーチングとしてはあまり望ましくない状態です。部下の本音や意見を引き出すためには、自由に回答できる質問を効果的に使っていかなければなりません。
部下が組織の中でどのような思いを抱えているか、どんな状況にあるかは、自らの言葉で語ってもらうのが一番です。特に部下のやる気を喚起するためには、主観的な思いを受け止める必要があります。
また、命令では効果が出にくい場合に、自由回答で尋ねる質問をするというのも効果的です。「こういうやり方をしろ」と一方的に言うよりも、「どんなツールを使えばいいと思う?」と尋ねたほうが、発想の幅が広がるでしょう。ただし「どう思う?」といった抽象的すぎる質問はNGです。何を答えればよいか困ってしまうからです。できるだけ具体的に質問を投げかけるようにしましょう。
その最たる質問が、「リスト3の質問」と呼ばれるものです。「今できることを3つ挙げてみて」「外注先の候補を3つ出してみて」といったように、選択肢を3つ考えさせるのです。とても簡単な方法ですが、こうするとすらすらと答えが出てきます。
この「3つ」という数字が重要で、人は最初に思いついたアイディアに固執してしまう癖があります。しかし3つ選択肢を挙げることで、他のアイディアを生み出すことができるのです。「この方法しかない」と思って仕事を進めるのと、「他にもっといい方法があるかもしれない」と思って仕事を進めるのでは、長い目で見るとパフォーマンスに大きな違いが出ます。発想の幅を広げる意味でも、この「リスト3の質問」で自由回答を促してみてはいかがでしょうか。
質問によって客観的な事実関係を引き出すことも大切です。戦略を立てる際などは、感情論ではなくできるかぎり正確なデータが必要です。ですから5WlHを押さえた質問ができるとベストです。
「例の案件は、今どの段階まで進んでいる?」「どの時点でミスが起きた?」「いつまでに納品する約束ですか?」といった質問です。価格や時刻、場所や責任者などの具体的な項目を踏まえつつ質問すると、正確なデータが得られるでしょう。
この質問は、トラブルやミスが起きた時にも使って欲しいと思います。客観的な事実を把握しておくために「時間の経過に沿って事象を説明してください」といった風にです。このように質問しておけばミスが起きた時の正確な状況を把握することができ、適切な対処をとることができるでしょう。
「どうしてミスをしたんだ」「なんで目標を達成できないのだ」と叱責すると、部下は攻められていると感じて事実を伏せようとしてしまいます。すると対処が遅れて新たなミスを引き起こしてしまうこともあります。うまく事実を回答させる質問をして、部下を正しく導くことも上司の務めです。
コーチングで一番中心的な役割と言えば、「意見を自由回答で尋ねる質問」です。しかし部下がうまく答えられないということも多々あります。沈黙から読み取れることもありますが、あまり沈黙の時間が長いとプレッシャーがどんどん大きくなってしまいます。そこで「どうして黙っているんだ」なんて聞いてしまうと、部下はますます萎縮してしまうでしょう。
そんな事態を防ぐためには、上司のほうで「答えやすくする工夫」をしてあげることが大切です。具体的には、選択肢を提示してあげるのです。「プランA、B、Cの中で君はどれが一番いいと思う?」「取引先の中で、一番アプローチしやすいのはX社とY社のどちら?」といったような方法です。こうすれば部下は答えやすくなるでしょう。
気をつけなければいけないのは、部下の発想が上司の提示した条件に縛られてしまうことです。本当は「プランDが良さそうだな」と思っていても、上司が「プランA、B、C」と提示してしまうと、部下は「プランDが良い」という考えを引っ込めてしまうのです。
こうならないためには、「その他」という選択肢を加えておくと良いでしょう。「プランA、B、C、もしくはその他のプランの中で、君はどれが一番いいと思う?」と聞けば、部下はDのプランを提案しやすくなりますね。少しの工夫で、部下が積極的に発言できるようになるのです。
最後に、「数字で答えさせる質問」についても詳しく解説しておきましょう。「YES or NO」「良い or 悪い」といった二者択一ではなく、もっときめ細かいコミュニケーションを形成できるのが、この「数字で答えさせる質問」です。
「今の仕事に対する満足度は、十点満点で表すと何点くらい?」「プランA〜Cをそれぞれ10点満点で評価してみてくれ」といった質問が、これに当たります。もちろん答えは部下の主観に基づくものですが、その後のコーチングが非常に良いものになります。
「さきほど6点と答えたけれど、残り4点分満足できていないのはなぜだろう?」といったように、話を広げていけるからです。「どう思う?」などといった漠然とした質問に比べて具体性があり、答えやすくなるのです。この質問も、ぜひ取り入れてもらいたいです。
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