あなたはコーチングの対話の中で、「クライアントが本音を話してくれない」と感じたことはありませんか?もしかしたらそれは、あなたがコーチングのコミュニケーションの中で大切な「ある事」をしていないためかもしれません。
この記事では、クライアントに本音を話してもらうための前提となる「安心感」を醸成するために大切なスキルについて解説していきます。
コーチングの会話では、質問をして相手の答えを聴くのが基本ですが、ここで大切なのはコミユニケーションを完結させることです。ここで言うコミュニケーションの完結とは、“相手が発した情報をコーチが受け入れ、それを相手に示すこと”を指します。
ある会話を見てみましょう。
A「先週、釣りにいったら大きな鯛が釣れたんだよ」
B「鯛って高いし、自分で釣れたらいいよな」
C「そういえば、駅前の居酒屋、鯛料理が有名らしいよ」
D「うちの奥さんの田舎では鯛めしが名物なんだ」
これはABCDの4人が、「鯛」というきっかけで会話をしている様子です。いたって普通の会話ですが、全員が「情報の発信者」であることに気が付きましたか?誰も、他の人の話を受け取っていませんよね。この場合、「コミユニケーションが完結した」とは言えないのです。
コーチとクライアントの会話は、こうではいけません。コーチングではコーチが「コミュニケーションの完結」を意識して話をする必要があるのです。会話が完結するのは、話を受け入れたとき。聴くことと、受け入れることを念頭においておかなければいけません。
とはいっても、「話を受け入れた」とは、どういった状況なのでしょうか。先ほどの会話の例で言うと、
A「先週、釣りにいったら大きな鯛が釣れたんだよ」
B「へぇ、鯛が釣れたんだ」
このようにいったん相手の話を受け取って返す「オウム返し」をすると、相手は「自分の話が伝わった」と感じるでしょう。
コーチングではもっと内容の深い話をしているはずですから、たとえば「よくわかります」と理解を示したり、「つまり、〇〇ということですね」と要約したりすると、話し手は「自分の話が受け入れられた」と思うことができます。
実際のコーチングでの会話例も見てみましょう。
コーチ「〇〇さん、前回立てた行動目標は進んでいますか?」
クライアント「それが実は、あまり進んでいなくて…」
コーチ「あまり進んでいないんですね」
こうやってオウム返しをすることで、一回コミュニケーションを完結させます。そうすればクライアントは「進んでいないことを受け入れてくれた」と感じ、なぜ進まなかったのかという理由を話そうという気になります。
オウム返しされることで、これまで会話のほうに向いていた自分の意識が、再び自分自身のほうに戻ってくるのです。
これがもし、
コーチ「〇〇さん、前回立てた行動目標は進んでいますか?」
クライアント「それが実は、あまり進んでいなくて…」
コーチ「あれ、前にも同じようなことがありましたね」
クライアント「申し訳ありません。実は…」
コーチ「そういえば、今月は新しいプロジェクトが始まるんでしたね!」
などのように、相手の話をさえぎったり、先回りして結論を言ったりすることは、一見、テンポの良い息の合った会話のようですが、どちらの主張も完結してはいません。
このように普段の会話は、お互いの話を受け取らなくても進んでしまうものですが、そのテンポ感でコーチングはできません。会話をどう進めるかということよりも、「受け入れた」というサインを出して、コミュニケーションのワンサイクルを完結させることが大切なのです。
ちなみに「受け入れた」というサインは、「同意した」という意味ではありません。「安心して続きを話して」という意味です。安心させることで、クライアントは「話していいんだ」というコミュニケーションのスタート地点に立つことができます。いわば、ここからが本当の会話のスタートなのです。
ひとつ、職場でコーチングスキルを導入した成功例を紹介します。
ある菓子店を経営しているEさんという方がいました。ビジネスは成長曲線をたどっており、スタッフも50名以上在籍しています。しかし支店長とスタッフの間の折り合いが悪く、販売スタッフが仕事をやめてしまうということが多発していました。
Eさんは販売スタッフと支店長の間にたち、どうにか人間関係を改善しようと、コーチングスキルトレーニングに参加しました。
そのころ、「この仕事が向いていないので、辞めたい」とスタッフからの申し出がありました。Eさんはコーチングスキルトレーニングで学んだ「受け入れる」スキルをさっそく使ってみました。
スタッフ「この仕事が向いていないので、辞めたいです」
Eさん「仕事が向いていないから辞めたいんだね」
するとスタッフは少し驚いた顔をして、「支店長と性格が合わない」という本音を話し始めました。そこからの会話も、Eさんは意見をはさまずに受け入れながら話を聴くことに注力しました。会話が終わるころ、スタッフは「…ということなんですが、仕事自体は好きなのでもう一度自分で考えてみます」と言って帰っていったそうです。
人間は、「相手に否定されている」と思うと本音で話せなくなります。ですがEさんが話を「受け入れた」ことで、このスタッフは安心して本当の理由を話すことができたのです。安心すると「どうして辞めたいと思ったのだったっけ」と自分自身の意識を振り返り始めます。その中で、「仕事が向いていないから辞めたいのではなく、支店長との相性が悪いのだ」ということに気付けました。
このように、コーチが「受け入れる」ことで、一人で考えていたときには辿り着かなかった答えを導き出せることがあるのです。
コーチングでは「聴く」「受け入れる」という姿勢が大切です。コーチングに限らず仕事でもプライベートでも、コミュニケーションの質によって、人間関係の質も決まってくることが多いようです。
「聴く」スキルが未熟だと、相手の気持ちを勝手に推量してしまったり、自分の判断基準で相手の価値観を否定してしまう…ということがおこります。
「聴く」「受け入れる」ということは、簡単なようですが、円滑な人間関係の根幹を支えるスキルだと言えるかもしれません。
いかがでしたか。クライアントが安心して本音を話せる環境を作るためには「受け入れる」ことがまず何よりも大切だとおいう事がお分かりいただけたと思います。
人は、安心して話せる環境があってこそ、自分のことを振り返ったり、思考を深めて気付きを得たりすることができます。聴くことと受け入れること、この2つのスキルを身に付けて、より効果的なコーチングコミュニケーションに役立ててみてください。
ブレイクスルー英語コーチ 津田塾大学卒業後、証券会社、PR会社、留学等を経て外資系銀行の広報部にて広報業務全般に従事。東日本大震災をきっかけに、震災復興支援業務に携わるとともにコーチングを学び、現在は【一目置かれる英語を話すための発話・発音コーチング】を提供している。仙台在住。二児の母。コンラボには2016年よりライターとして参画。また、ストレスクリア®コーチとしても活動中。
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